ユウゼンという日本固有のチョウチョウウオがいます。
八丈島と小笠原諸島に多く生息し、それ以外の地域では稀な種です。
八丈では、潮通しの良い場所で通年普通に見ることができます。
そのため、多くのダイバーがユウゼン見たさにやってくるのです。
ガイドをしている身としては、
ゲストにユウゼンをじっくり観察、撮影をして欲しい気持ちがあります。
そんなときに打って付けの場所があります。
そこでは、不思議とユウゼンがダイバーの近くに集まってくるので、
至近距離から見放題、撮り放題になります。
ところが、この時の僕は
一刻も早くこの場から離れなきゃと内心すごく焦ってもいます。
その理由は、ユウゼンがダイバーに集まってくる本当の目的にあります。
実はこの場所、水底に大きな岩がごろごろ転がっていて、
秋になると岩の一つ一つにオヤビッチャという縞模様のスズメダイが卵を産み付けます。
ユウゼンは、この卵を狙っているのです。
産卵期のオヤビッチャは、とても気性が荒く、
近づく魚は自分の4倍も大きな魚でも激しく追い立て、
必死に卵を守っています。
そんな勇猛果敢なオヤビッチャといえども、
ダイバーにはお手上げの様子で、近づくと卵を放棄して逃げ惑います。
いつもオヤビッチャに攻撃され、影から恨めしそうにしていたユウゼンたち。
いつしか、ダイバーが現れるとオヤビッチャが慌てふためくことを発見しました。
以来、ダイバーが産卵場所周辺に差し掛かるだけで
どこからともなくユウゼンが湧いて出てくるようになりました。
彼らは、ダイバーの脇や股下に隠れてチャンスを狙います。
そして、水底から一定の距離まで近づき、
オヤビッチャの混乱に乗じて襲いかかっていくのです。
まさに食べ放題。
親分の号令で「イー!」と仮面ライダーに飛びかかるショッカー軍団のようです。
その親分はというと、われわれダイバーなのです。