この一か月間、日中3本潜った後、
ご飯を食べる時間もなくナイトへ行くという日が続きました。
その間、買ったまま冷蔵庫で眠っていた野菜たちが
次々とレベルアップしていったんです。
もやしはLv.7 (1週間)でぐずぐず、
ナスはLv.13でどろどろ、ニンジンはLv.20でへたへたに形態変化しました。
驚いたのはかぼちゃで、なんとふわっふわになっちゃいました。
伊豆諸島・八丈島より石野です。
野菜をそこまで育て上げてしまうほどハマっているもの。
それは、大光量のライトを海底に設置し、
集光性質のある仔稚魚や甲殻類などを集めるダイビング。
巷では、ミッドナイトダイブや、ライトトラップなどと呼ばれ、
ブラックウォーターダイブという名のイベントもありました。
ここ八丈島では「八丈の夜はHOTけNIGHT!」にしようと僕が命名したのが採用されました。
一緒に調査をしてきた先輩ガイドたちは、
当初「一番若いのにセンスが昭和くさくね?」と笑っていましたが、
今や「今夜も潜らナイト!」とか言ってかなり気に入っている様子。
さて、そんな「八丈の夜はHOTけNIGHT!」は前回更新した
「歴史が動いた日」以来急展開しました。
水中撮影機材のINONさんに
「八丈で浮遊系ダイビングのイベントやりたいんですが・・・」と打診したところ、
「やりましょう!」と快諾してくれたんです。
「その前にお試しイベントしてみたいんですが・・・」という無茶ブリにも
二つ返事で引き受けてくれました。
どこぞの通信会社社長か!と。
そういうわけで、全国各地でモニター会が開催されていて在庫がない中、
無理矢理八丈のために集魚灯スタンドセット1式を用意してくれることになりました。
左:高出力ビームライトLF1400-Sと、右:超挟角5°のナローライトLF800-N
この話を先輩たちに話したら、それはもう大盛り上がりで
すぐに日程が決まりました。
その上、なんとRGBlueで有名な
エーオーアイ・ジャパンさんの協賛まで取り付けてくれたんです。
かくして、同じ志を持った3人のガイドが集まり、
INONライトとRGBlueいう強力な武器を手に入れて、
八丈島ダイビングの歴史に新たな幕を下ろしたわけです。
ところでこの「八丈の夜はHOTけNIGHT!」は、
海況や天候など様々な条件に大きく左右されるため、
何が出るかは運次第です。
それでも、先輩たちが八丈島で長年ガイドとして
培ってきた経験に基づいて結果を分析。
これまで何度も調査を続けてきたおかげで、
潮回りや風向きの影響度合がだいぶ分かってきました。
これまでの調査が見事に実り、
6/20-22に行った「八丈の夜はHOTけNIGHT!」のお試し開催では、
イトヒキアジの出現という大当たりで
華々しく閉幕することができました。
初めてナイトダイビングをした人も、ナイトは苦手という人も
1度やっただけでその魅力に憑りつかれてしまいます。
お試しイベントでは、様子見で1度参加してみたいと言ったゲストが2人、
魅了されて結局全日程とも参加しました。
暗闇の中、煌々と炊かれる無数のライトが作り出す幻想的な世界はもちろん、
見たこともない生き物を探すワクワク、
そして、目の前の生き物に全神経が集中されていく感覚は、
今までのどんなダイビングでも感じたことのない中毒性を持っています。
「八丈の夜はHOTけNIGHT!」でこれまでに見られた生き物は、
マリンダイビングに”夜の海の貴婦人”として紹介されていたのを見て以来憧れていた、
クダリボウズギスモドキ属の稚魚。
これまでにコモンクダリボウズギスが複数回確認されています。
ミノカサゴに擬態しているのではと言われているのも容易に納得できる、胸鰭の鮮やかさ。
チョウチョウウオのトリクチス幼生。
浮遊期にそんな呼び方があるなんて、見たことも聞いたこともありませんでした。
うっすらチョウチョウオぽい斜線模様が見えます。
サザナミヤッコの稚魚なんて、普通に潜っていては
一生見ることなんてなかったでしょう。
こちらもうっすらとしか幼魚の模様が出ていません。
透明な魚たちは、ライトを照らすと虹色に輝きます。
それだけでも一見の価値あり。ニザダイ科。
日中でも見られるキンメモドキ。
動き回って手に負えない日中と違って
夜はコンデジでもゆっくり撮れるほど動かないんです。
日中たくさん見られるクロユリハゼの幼魚ですが、そのお腹に
ルビーが隠されていたなんて「HOTけNIGHT!」を始める前は知りませんでした。
地味なスズメダイ科の仲間たちは、日中だとあまり見向きされない存在ですが、
スケルトンの稚魚たちはちょっと違います。
というのも、着底していく様子がよく見られるんです。
浮遊している間は透明でも、着底直後には薄らと色が現れてきます。
それによってソラスズメダイだ!と分かる、なんてこともありました。
「HOTけNIGHT!」中は捕食シーンをいたるところで観察することができます。
ライトに集まってくる魑魅魍魎たちをバクバクと食していく稚魚たち。
特に、クラゲの仲間が捕食するシーンは驚きで、
自分の体より大きい甲殻類や仔稚魚を食べてしまいます。
キュウリエソやフウライカマスと言った、
初めて聞くような名前をした深海性の稚魚も見られることがあります。
これらのものは見た瞬間に様子がおかしいと感じます。
顔つきが普通の魚とちょっと違うからです。
時折こんな珍客があることも「HOTけNIGHT!」の面白いところです。
他にも、普段は流れ藻にくっついて
浮遊生活を送っていると思われているハナオコゼが
捕食のためにライトの近くまで下りてくることもあったり、
マダラエイやアオウミガメが様子を伺いに来たり、
正体不明のイカが地を覆い尽くすほど大群で押し寄せてきたこともありました。
これらの写真を見て伝わってくれているとうれしいのですが、
とにかく、何が出てくるか分からない。
だからこそ当たったときの興奮もひとしおなのです。
騙されたと思って1度体験してみてください。
「八丈の夜はHOTけNIGHT!」が、今までのダイビングライフを塗り替える
特別な一夜となるに違いありません。
僕たちが毎晩盛り上がっているのを見て、見学にきた島の先輩ガイドは
「なんてクレイジーなんだ!」と驚いていました。